「大きさを認識できない人たち」という言葉を見て、しばらく反芻していたらおはなしができたので書く。
むかしむかし、あるところに一人の男がおりました。 彼は昔からビッグな男になれと育てられてきて、ビッグな男になることにこだわりを持っていました。 しかし彼はビッグな男にはなれませんでした。 彼は飛脚の仕事をしていました。 でも、根っこが強ければどんな時でも大丈夫といって、心の強い人間に育てられていたので彼は諦めずひたすら走り続けました。
ある時、彼はあまりの激務に倒れてしまいました。 途中の村の人に助けてもらい、目が覚めた時に彼は歩けなくなっていることに気がつきました。 まるで足に根が生えたようです。 実際に彼の意識は根のように広がり、向こうの山まで届くほど広く、深く掘ればきりがないほど広く深い巨大なネットワークを形成していました。
彼は自分の足元で何が起きているのかわかりませんでしたが、自分の感覚が、意識がとても大きくなっているのを感じました。 感覚を研ぎ澄ませれば隣の村の家で人が歩く様子も感じ取ることができました。
僕はビッグな男になったんだ!
いち早く皆にそれを教えたかったのですが、いかんせん動くことができないので村の人がやってくるまで待ちました。 しかし村の人は彼のビッグさを理解しませんでした。 動けないと飛脚の仕事はできません。 彼はただの穀潰しです。 そのうえ本当に隣の家の動きがわかるのなら、これはプライバシーの侵害です。 適当なことを言って村の人間を無用に怖がらせたと訴訟を起こされそうになりました。 モグラの位置を当てることができると気がつきましたが、若者はみんな大物ユーチューバーになるんだと言って農業を継がないので、畑を掘り返せる体力のある人は村にいませんでした。
しかし、彼の言うことを信じてくれるやさしい人もいました。 やさしい人たちは彼に食事を分け与えてくれたので、彼は飢え死にしないですみました。
ある日男がいつものようにモグラの観察をしていると、底のほうに熱いものを感じました。 どんどん上のほうに上ってきます。 何か嫌な予感がしたので、彼は逃げるように村の人に言いました。 大半の人間は無視しましたが、やさしくしてくれた人たちは彼の言葉を信じてできるかぎり遠くへ避難しました。
彼は信じてくれた人たちが意識の外まで行って感じ取れなくなるのを「見届け」て、安心しました。 しかし彼は動けません。 得体の知れない何かはどんどん上がってきます。
村の近くの山が噴火しました。 火砕流が村を襲い、村にいた人は全員死にました。 しかし男の言葉を信じて避難した人たちは助かりました。 皆はビッグな男だったと言って彼に感謝しました。
この話は海の向こうまで伝わり、ドライアドとして逆輸入され、今でも多数のエロ同人創作がうまれています。
めでたしめでたし