この記事は、
DMD 2.076.0 Released – The D Blog
を自分用に翻訳したものを 許可を得て 公開するものである。
誤字や誤訳などを見つけたら今すぐ Pull requestだ!
コアDチームがプログラミング言語Dのリファレンスコンパイラ、DMDのバージョン2.076.0を公開し、
ダウンロードできるようになりました。
このリリースの大きな特徴は2つあり、ジェネレーティブプログラミングとジェネリックプログラミングのためのstatic foreach
機能と、
Cプロジェクトを徐々にDに切り替えていくことを簡単かつ有用にする、非常に強化されたC言語統合です。
static foreach
ジェネリックプログラミングとジェネレーティブプログラミングのサポートの一環として、Dではversion
やstatic if
文のような構文による条件コンパイルができます。
これらは異なるコードパスをコンパイル時に選択したり、文字列mixinやテンプレートmixinと組み合わせてコードブロックを生成するために使用されます。
これらの機能による可能性は発見され続けていますが、コンパイル時ループ構築の欠如は常に不便をもたらしていました。
こちらのサンプルで、val0
からvalN
と名付けられる定数群は設定ファイルで指定された数値N+1
を元に生成されなければなりません。
実際の設定ファイルではパース用の関数が必要ですが、この例ではval.cfg
ファイルは10
などの単一の数値のみを含み、他に何も書かれていないと仮定します。
さらに、val.cfg
はコマンドラインdmd -J. valgen.d
を使ってコンパイルされるソースファイルvalgen.d
と同じディレクトリにあるものとします。
module valgen;
import std.conv : to;
enum valMax = to!uint(import("val.cfg"));
string genVals()
{
string ret;
foreach(i; 0 .. valMax)
{
ret ~= "enum val" ~ to!string(i) ~ "=" ~ to!string(i) ~ ";";
}
return ret;
}
string genWrites()
{
string ret;
foreach(i; 0 .. valMax)
{
ret ~= "writeln(val" ~ to!string(i) ~ ");";
}
return ret;
}
mixin(genVals);
void main()
{
import std.stdio : writeln;
mixin(genWrites);
}
記号定数valMax
は、コンパイル時にファイルを読み、文字列リテラルとして扱われる
import
式によって初期化されます。
ファイル内の単一の数字のみを扱うので、文字列を直接std.conv.to
関数テンプレートに渡してuint
に変換することができます。
valMax
がenum
のため、to
の呼び出しはコンパイル時に発生する必要があります。
最後に、コンパイル時関数評価(CTFE)の条件を満たすため、
コンパイラはその呼び出しをインタプリタに渡します。
genVals
関数は定数val0
からvalN
までの宣言を生成するために存在し、N
はvalMax
の値で決まります。
26行目の文字列mixinがgenVals
のコンパイル時呼び出しの発生を強制するため、この関数はコンパイル時インタプリタによっても評価されます。
関数内のループが各定数の宣言を含む単一の文字列を構築し、複数の定数宣言としてmixinするために返します。
同じく、genWrites
関数にはgenVals
で生成した各定数でwriteln
を呼び出すという単一の目的があります。
また、コードは単一の文字列として構築され、main
関数内の文字列mixinは、
返値がmixinしコンパイルできるようにgenWrites
のコンパイル時の実行を強制します。
このような単純な例でさえも宣言や関数呼び出しの生成のための関数が2つもできてしまうというのは可読性に問題があります。
コード生成は非常に複雑になり、コンパイル時にのみ実行される関数の作成は複雑さを増大させます。
Dのコンパイル時構築を使う誰にとっても反復が必要となるのは珍しいことではなく、
コンパイル時ループを提供するためだけに存在する関数もまた珍しいことではなくなりました。
このようなボイラープレート(訳注: 言語仕様上省く事ができない定型的なコード1)をなくしたいという欲求は、
static if
の仲間のようなものであるstatic foreach
のアイデアの優先順位を高くしました。
DConf 2017で、Timon Gehrはハッカソンに真剣に取り組み、
コンパイラにstatic foreach
のサポートを追加するプルリクエストを実装しました。
彼はDIP 1010を実現するためにそれを踏襲し、
DIP 1010は言語の作者から熱心な賛成を受けました。
DMD 2.076で、ついにすべての準備が整ったというわけです。
この新機能によって、上記の例は以下のように書き換えられます:
module valgen2;
import std.conv : to;
enum valMax = to!uint(import("val.cfg"));
static foreach(i; 0 .. valMax)
{
mixin("enum val" ~ to!string(i) ~ "=" ~ to!string(i) ~ ";");
}
void main()
{
import std.stdio : writeln;
static foreach(i; 0 .. valMax)
{
mixin("writeln(val" ~ to!string(i) ~ ");");
}
}
このような単純な例でもわかりやすく可読性の向上があります。 このコンパイラのリリースをきっかけにコンパイル時に重いDライブラリ(そのほとんどではないでしょうか?)に大きなアップデートがあっても驚かないでください。
Cとの統合と相互運用性の改善
DMDの-betterC
コマンドラインスイッチは、かなり前から存在はしていましたが、
実際には役に立たなかったし、より緊急の事項への対処のため放置されてきました。
DMD 2.076で、それが動き始めました。
一つのプログラムのうちでDとCの両方を組み合わせる、特に作業中のプロジェクトにおいてCのコードとDのコードを徐々に置き換えるのを簡単にする、 というのがこの機能の背景にある考えです。 Dは初めからCのABIと互換性があり、CのヘッダをDのモジュールに変換するいくらかの作業によって、あらゆる仲介なしに直接CのAPIを呼べるようにできます。 逆にDをCのプログラムに組み込むことも可能でしたが、それはスムースなプロセスではありませんでした。
おそらく最大の問題はDRuntimeでした。 Dの一定の言語機能はDRuntimeの存在に依存しており、 したがってCの中で使われることを意図したDコードはランタイムを持ってきてそれが初期化されていることを確認する必要があります。 ランタイムとランタイムへのすべての参照はCとリンクする前に切り捨てる必要があり、 それはコードを書く時とコンパイルするときの両方で少なくない努力を要します。
-betterC
はDのライブラリをCの世界に持ち込み、
Cのプロジェクトを一部または全部Dに置き換えることによってモダナイズするのに必要な努力を劇的に減らすことを目的としたものです。
DMD 2.076ではその目的に向かっての重要な進捗がありました。
-betterC
がコマンドラインで指定されたとき、Dのモジュール内のすべてのアセットはDのアセットハンドラではなくCのアセットハンドラを使うようになります。
さらに重要なのは、Dの標準ライブラリであるDRuntimeとPhobos、そのどちらも通常通り自動的にリンクされることがないということです。
つまり、もはや-betterC
を使うとき手動でビルドプロセスを設定したりバイナリを修正する必要はないということです。
Dのモジュールから生成されたオブジェクトファイルやライブラリは特別な努力なしに直接Cとリンクできるようになりました。
これはVisual StudioのDプラグインであるVisualDを使う場合特に簡単です。
以前からVisualDはCとDのモジュールの同じプロジェクト内でのミックスをサポートしています。
アップデートされた-betterC
スイッチはこの機能をより便利なものにします。
新しいリリーススケジュール
これはコンパイラや言語の機能ではありませんが、注目に値するものです。 今回は新しいリリーススケジュールに準拠した最初のリリースです。 これからはベータリリースは2017–10–15、2017–12–15、2018–2–15などのように、毎月15日にアナウンスされます。 これによってリリーススケジュールにいくらか信頼性と予測可能性がもたらされ、拡張、変更、新機能のマイルストーンの計画が簡単になります。
今すぐ入手しましょう!
いつものように、このリリースの変更点、修正点、および拡張点は、チェンジログに記載されています。 このリリースは常にhttp://downloads.dlang.org/releases/2.x/2.076.0からダウンロードでき、 最新のリリースとベータ、ナイトリーはD言語のウェブサイトのダウンロードページにあります。